LOGIN「…ふわぁーーー…今日はなんだか疲れたなー。」
眠さで大きなあくびをするミーナ。 ロフィスの一件の後、グレンとミーナは町の外れにある綺麗な水辺の近くに寝泊まりすることにした。 「けどグレンの空間能力はすごいね。なんでも収納可能じゃん。」 テントや寝泊まりするために必要な道具はグレンの空間能力のポケットから引き出した。 「…そういや、エバルフさんが言ってた事ってほんとかな?」 ミーナはエバルフ達と別れる際に、エバルフからこんな事を聞いた。 昼間 ロフィスを倒した後、エバルフ達はグレン達の方に向かって一列に整列した。 「今回の件に関しては、紅の悪魔祓いの協力で獄魔の討伐に見事成功した。感謝する。それと、お嬢ちゃん。…ありがとう、君のおかげで騎士団の誇りを思い出せた。」 「全隊、礼!!」 そしてエバルフの号令でエバルフと部下達は全員揃って頭を下げた。 「俺を捕まえなくていいのか?ずっと狙ってたんだろ?」 「まさか、今日俺たちの命を守ってくれた恩人を捕まえるわけないだろう。…では、俺は今日の事を騎士団の団長に報告しなければならんからここで失礼する。」 エバルフ達は去ろうとしたがエバルフは最後に振り返ってからこう言った。 「一応言うが団長には気をつけろよ。あの方はお前みたいな強い奴と戦うのが好きだから会えば必ず戦いになる。そうなったら流石のお前も命はないぞ。」 それを最後に言い残し、部下を引き連れて去っていった。 「………命はないぞ…っていう事はグレンより強いのかな?」 悪魔を余裕で倒すグレンに勝つかもしれない人なんて相当強いに決まってる。 「だとしたらグレンとその団長は近づけてはいけないわ。…そういえばグレンは裏で何してるんだろ?」 ミーナはその事を伝えるためにテントの裏に顔を出してみた。 そこには何やら坐禅を組みながら目を瞑り、魔法書のような物を開いていた。 その周りを囲む様に黒い魔法陣が地面に展開され、そこでひたすら呪文のような物をブツブツと唱えていた。 ミーナはよく聞き取れないので気づかれないようにそーっと近づいて聞いた。 「(何だろう…?こんなに近くで聞いてるのに何言ってるのかさっぱり…)」 ミーナはここで邪魔するのもグレンに悪いと思ったのか終わるまでそばで待つ事にした。 おいっ、お前! 「ん?…今声が聞こえたような…」 探さなくていい!前見てみろ! 突然誰もいないはずなのに聞こえてきた声を探していたミーナはその声の言う通り目の前のグレンを見た。 しかし、グレンはずっとブツブツと呪文を唱えているので声をかけたのは他の人…。 でも誰が? (そうだ、俺はお前が見てるところにいる!) 「えっ?もしかして、グレンなの?」 しかし、グレンはこっちを見る事なくブツブツと呪文を唱えてるだけなのに声の発生源はグレンの方からだった。 (そうだ。俺はグレンの中からお前の心に話しかけてんだよ。) 「グレンの中から?…もしかして悪魔なの?」 (ああ、そうだ!確かこいつのもう一つの人格が言うてたろ?俺は契約によってこいつと共存してるってな。) その悪魔は姿は見えないがその不気味で低い声を聞けばどれだけ恐ろしい悪魔なのかミーナでも判断できた。 「…あなたが、グレンを悪魔祓いにした悪魔なの?」 (だったらなんだよ?大体俺がいなかったらこいつは死んでんだぜ?…そんなことよりもよ、今はこいつの邪魔しない方がいいぜ?) 「グレンは何してるの?」 ミーナが話しかけてもグレンは呪文をずっと唱え続けているがその中にいる悪魔は言った。 (こいつは今 魔導の扉(マジックゲート)に行ってる。) 「魔導の扉って何?」 (お前らでいう勉強みたいなもんだ。まだ習った事のない教科は勉強して身につけるだろ?こいつはああやってブツブツと呪文唱えることで魔法を習得する事が出来るんだよ。) 「へ、へぇー」 普段から勉強していないミーナはあまり共感出来なかったのか適当な返事を返した。 「勉強しなくても楽に魔法が手に入るなんていいなぁー。」 (あ?誰が楽に手に入るって言ったよ?魔導の扉は約30分で新しい魔法を習得出来るがその分デメリットもある。) 「デメリット?」 (ああ。あれはその30分間意識をある場所に持っていかなければならないからな。下手したらそのまま意識が戻らなくなる。) 「えぇ!!そんな危険なのこれって!?」 (うっせーな…デカイ声出すんじゃねーよ。だから意識を持ってかれないように呪文唱えてんだろ?) 「なるほど。ああやって集中を切らさないようにしてるのね?」 (そうだよ!…ったく…そろそろあいつが戻ってくるからあばよ!) そう言い残して悪魔の声は聞こえなくなり、呪文を唱えてたグレンは目を開けると魔法陣が消えていった。 目を開けるとそこにミーナがいたので気づいた。 「…なんだ、いたのか」 「うん、ちょっとね。その…何してたの?」 「なんでもいーだろ?…明日は朝早くに出発するから今日はもう寝ろ。」 ミーナに教えるのが面倒くさいのかミーナを押しのけてグレンはテントの中に戻っていった。 「何よ、ほんっと自分勝手ね!別に知ってるからどーでもいーもん!」 文句を言いながらミーナもテントの中に戻った。 一方、エバルフは今回の出来事を伝えるために騎士団に戻った。 石造りの建物の扉を開けるとそこには1人の女性が騎士団の鎧を身につけて立っていた。 「あら、帰って来たのね。12騎士長。」 その女性は鎧を身につけているが金髪で目の大きい美人な人だった。 「そういうお前は何してるんだ。10騎士長(テン・ナイツ)。」 「その呼び名はやめてちょうだい。2人っきりの時くらいカレンって呼んでちょうだい。」 「…お前、それ誰にでも言うんだな…。」 この騎士団は12人の強い騎士を○騎士長と呼ばせていて、強いものほど低い数字の騎士長と呼ばせていた。 しかし、カレンはそう呼ばれるのが嫌いだった。 なぜなら 「だって~、男には名前で呼んでもらいたいもんー!」 「ハァー…そんなんだからお前は20代後半になっても彼氏すら出来な……痛たただだだだ!!」 「今なんかいった~?」 「何も言ってませーん!言ってないから捻りながら俺の足を踏むなー!!」 笑顔のままエバルフの足を踏みつけるカレン。 そんな事をしてると誰か他の奴が帰って来たのか扉が開いた。 「おーい、帰ったぞー…って、何してんの?」 扉を開けたのはグレンと同じ10代後半でエバルフやカレンとは違う黒い服を纏い、腰には二刀の長剣をぶら下げていた。 一見少年に見えるその男にエバルフとカレンは姿勢を正して。 「「お、お疲れ様です!団長!!」」 そう、この男こそが大国イフリークの魔法騎士5000人を従える団長だった。 「そんな堅苦しいあいさつしなくていーよ。みんな俺より年上なんだしさ。」 「い、いくら私たちの年が上だとしてもあなたと私たちでは騎士としての位が違いますよ!」 「そ、そうです!俺みたいな一番位の低い12騎士長が団長に失礼な態度など取れるはずありません!」 「はは、そんな事ないよ!…で、2人は何こんな所で仲良く痴話喧嘩してるの?」 「「してません!!」」 団長にからかわれて2人は同時に声をあげて否定した。 そのあまりにも息がぴったりだったので団長はクスクスと笑った。 この国の魔法騎士団団長は先ほどからエバルフとカレンが言うように年は低くてもこの国で一番強い魔法騎士であり、5年も前から団長を務めていた。 身長は少し低めだが一見黒髪で幼い顔つきでパッと見ただけでは普通のカッコいい少年に見える。 しかし、その強さは歴代の中でもずば抜けていて言い表すとこの国の5000人の魔法騎士を1人で相手し倒せる程の力を持っていると言われている。 「えー、結構似合ってると思うんだけどな。お二人さん。」 「「似合ってません!」」 またまた息ぴったりのお二人さん。 「あはは!…まあ、それはさて置き…10騎士長は何してたの?」 「わ、私は少し任務に行ってたので疲れて休憩してました!」 カレンは団長にそう言うが目が違う方向に向いてたのでエバルフはこれは嘘だなっと心の中で思った。 団長も同じように思ってたのか。 「え、君が任務の後に疲れて休憩なんて珍しいね?」 っと疑いの目でカレンに聞いた。 「えっと…そ、そうなんですよ!日頃の疲れが溜まってたのかもうクッタクタで、あははは!」 カレンよ、分かり易すぎるぞそれは。 団長はハァっとため息をついて今度はエバルフの方を向いた。 「……まあ、いいや。12騎士長は今日何してたの?」 「俺は今日……悪魔を討伐しました。」 その一言で場の雰囲気が凍りついた。 「あ、あなたが悪魔討伐ぅ?全く、嘘つくならもうちょっとマシな嘘にしなさいよ!」 お前に言われたくねーよ! しかし、団長は真面目な顔になり。 「ほう、悪魔をね。確かに君の力ではまだ悪魔を倒すとこまでは無理なはず。到底1人では倒せないはずたが……もしかすると誰かの手を借りたのですか?」 「……はい。今回は、悪魔祓いの力を借りて倒しました。」 「あ、悪魔祓い!?あんたあった事あるの!?」 悪魔祓いに異常に反応するカレン。 「あぁ。それも長年俺が追いかけていた妹の仇と思ってた男だ。」 「仇だと…思ってた?」 「俺の妹を殺したのはその悪魔祓いではなく、俺の部下だったロフィス……いや、悪魔だ。」 「ロ、ロフィスが……あなたの妹さんを…」 エバルフの言葉にカレンは口に手を当てながらフルフルと震えていた。 しかし、団長だけは。 「……なるほど、あのロフィスが悪魔だったなんて気がつかなかったよ。それで、そのロフィスを倒した悪魔祓いは今どこに?」 「分かりません。しかし、あの男は私の命の恩人です。どうかあの男に戦いをいどむのはやめて下さい!」 エバルフは急に慌しく団長に戦いを避けるように言った。 その理由は。 「何故?…その悪魔祓いって強いんでしょ?だったら戦わないと損じゃないか。」 「損とかの問題ではなく、あの悪魔祓いは全属性の最上級魔法を使いこなせる異端な男です!そんなのとガチで戦えば私たち騎士団の部下やあなたもただでは…」 「12騎士長。君は何か勘違いしてないかい?」 すると団長は腰にぶら下げている二刀の剣を抜くと口角を吊り上げ笑いながら言った。 「ふふっ…俺はさ、ただ単純に強いやつとの戦いが好きなんだよ!騎士の使命とか関係なくね!悪魔祓いが異端?上等だよ!だったら俺の力でねじ伏せれば良いだけの話だ!」 そう、これがエバルフが戦いを避けた理由だった。 この団長は見かけとは裏腹に強さを求める戦闘狂であり、戦いになると場所に関係なく辺り一面を壊滅させるので最近は年を重ねるごとに報酬よりも町の被害額の方が多くなっていた。 こんな自由気ままな性格でも騎士としての才能や魔力は他の者に比べるとずば抜けてるので周りからは信頼されていた。 「けど、すぐには戦わないさ。今日は任務終わりで体が戦う気分じゃないし面倒くさいしね。とりあえず俺はシャワー浴びて寝るわ。えっと…12騎士長の報告はそれだけだよね?」 「あ、はい!それだけです。」 団長はそれだけ聞くと奥にあるシャワールームのある部屋に入った。 「ふぅー……全く、団長の戦い好きときたら逆に尊敬するぜ。」 「そうね。あの人は生まれながらの天才だから私たちとは考え方が違うのよね。…あ、そういえばあなたこれから暇?」 「え、いや。別に何もないが。」 「じゃあさ!今からちょっとコレの相手して~?」 カレンは腰にぶら下げている剣を指差して言うがカレンがこれを言うと別のことに聞こえる。 「なんで語尾にハートがついてんだよ気持ち悪い。別に良いけどよ。」 「気持ち悪いってひどっ!もう怒った!あなたがクタクタになっても止めないから覚悟しなさ~い!」 「ハァ…こいつ顔は良いんだけどなぁ。騎士団よりあっち系の仕事の方が向いてるんじゃないかな……」 そう言いながらもエバルフは表の広場に出てカレンの剣?の相手をするのだった。「いつもありがとうね、リーナさん。」「いえいえ、私にはこれくらいの事しか出来ませんので。」カイルの家ではカイルの母親とミーナの母親であるリーナが、皆んなの食事を作って準備していた。クレーアタウンを悪魔に襲撃され、住む家が無くなったリーナは娘のミーナと一緒に居候させてもらっていた。(第34話参照)家族以外の人が増えるという事は家事をする者の負担が増えるという事だが、主婦としての家事スキルが高いリーナのお陰でカイルの母親は物凄く助かっていた。「リーナさんが居てくれるお陰で家事がだいぶ楽になったわ。」「それに、あなたが作る料理はどれも絶品で凄く美味しいからね。今日も頼りにしてるわよ!」「ありがとうございます、カルラさん。」カルラとはカイルの母親の名前である。2人はお互い歳が近い為、普段カイル達が居ない間に家事を早く済ませ、暇になってから色んな話に花を咲かせていた。確かにリーナの料理は作るもの全て絶品であったが、彼女は料理の腕をずっと磨き続けていた。その理由は、いつかアガレフが帰ってきた時に沢山料理を食べてもらう為であった。自分の料理が好きだと言ってくれた夫に、沢山自分の料理を食べてもらう為に。しかし、その願いは叶わなかったが今はその料理の腕が誰かの為に活かされており、それがリーナにとっても嬉しい事だった。そしてカイル達がノーム王のところから帰ってきた。「ただいま帰りました、母上!」カイルが帰ってきた為、玄関から自分が帰ってきたと伝える声が母達の居る部屋まで伝わってきた。廊下からバタバタと多くの足音が聞こえてくる。他にも一緒に暮らしているミーナとエミル、フィナ、ライク、ニケルも一緒に帰ってきたからだ。そして帰った6人は母たちの居る部屋にゾロゾロと入ってきた。「皆んなおかえりー!ご飯もう少しで出来るからね。」「ありがとうございます、カルラさん。私も手伝います。」「私もやります!」フィナが言うとエミルも便乗し、カルラ達の手伝いをしようとした。「ありがとうね。助かるわ、フィナさんにエミルちゃん。2人にはちょっとこのスープの味を見て良い感じに整えて欲しいの。」カルラは殆ど作っていたスープの最終調整をを2人に任せた。フィナとエミルは2人とも料理が得意である為、時間がある時などはカルラとリーナに手伝いを頼まれる事があった。しかし、
………ここは、どこだろう?気付いたらそこは真っ暗な空間にミーナはいた。「ここは…旅に出る前に見た夢の中みたい。夢の中のはずなのに夢じゃないみたいな…」そう。ここは初めてミーナが夢の中で優しい心を持つグレンと出会った場所であった。「ミーナ。」この声は?そう思ったミーナは声のする方を向いた。そこにはあの夢の中で初めて出会った黒髪のグレンが居た。「あなたは、あの時夢の中で会ったグレン?」そう質問すると、何故か黒髪のグレンは涙を流しながら言った。「…お願い…助けて欲しい。」そう言ってグレンは闇の中へと消えていく。「え、ちょっと待って!どこ行くの!…ねぇ!」ミーナは呼び止めたがグレンは何も言わずに消えていく。夢の中で走っていると何かにぶつかる様な衝撃が伝わった。「痛っ!」目の前で誰かにぶつかってしまったのか、ぶつけられた人は痛みを口にした。「…ハッ!…夢か……。」「…もぉ。夢か…じゃないわよ。何時だと思ってるの?」ミーナとぶつかったのは隣で寝ていたエミルであった。時刻は既に午前2時を過ぎており、起こされたエミルは滅茶苦茶不機嫌そうにミーナを睨みつけていた。「ご、ごめんねエミル。変な夢見てしまって…。」「もぉ……」そう言ってエミルは再び布団を被って眠りについた。「(今の夢、何だったんだろ?あの黒髪のグレンが現れたって事は、現実のグレンに何かあったんだろうか?)」「…ちょっと駄目だ…もう、眠い…。」少し考えたミーナであったが眠気には勝てなかった為、彼女もすぐに布団を被って眠りについた。ミーナ達はクレーアタウンでアスモディウスと戦ってから10日程の日が過ぎ去っていた。カイルはクレーアタウンで起きた悪魔との戦いで、カレンが悪魔サイドに居たことを西の大国イフリークの騎士団達に無線で伝えた。騎士団達の反応はそれぞれ違っていたが、全員悲しみに暮れていた。特にエバルフ。彼はカレンととても仲が良かった為、敵となったカレンを聞いて現実を受け止めきれずにいた。イフリークに残った12騎士長は5人4騎士長、ウェンディー・ソルディア5騎士長、シキ・ラインハルト6騎士長、エレンシー・ガーデン7騎士長、アレックス・マーベルそして12騎士長、エバルフ・シュロンこの5人はカイルから聞いたレミールに残った騎士長達の訃報を聞き、後日直接レミー
2人が見た通り、確かにヒスイはグロードを助けた。それは紛れもなくその場で起きた事実である。しかし、2人の記憶による事実と今こうして実際に起きたヒスイが刺された結果が矛盾している。何があったのか?それはベリエルの持つ虚無の魔眼の力が原因である。[あらゆる事象に対する再試行]これはその時に起こった場面を無かった事にし、再度その場面をやり直す事が出来る力。例えるなら、(殴られた→やり直し→殴られる前に戻る。)といった様に、実際起きた事を無かった事にし、起きる前に戻る事が出来る。言うなれば、時を巻き戻す力に近い力である。この力は虚無の魔眼を見せた相手にのみ発揮する。先程2人に虚無の魔眼を見せたのはこれを行う為であった。南の大国シルフで、カイルがハイド(ベリエル)に優勢だったがそれを一気に覆されたのも、この力が原因である。(第18話参照)そしてグロードが気がついた時にはヒスイは既にベリエルの黒い槍に突き刺されており、引き抜かれたと同時に後方へと倒れていく。「ヒスイ!!!!」ヒスイが倒れていく姿を見て叫ぶグロード。何故こうなったのか、考える余裕さえ無い。目の前で妻が刺された事に対する怒りがグロードの心を真っ赤に染め上げる。そしてグロードは空間移動でベリエルの元まで転移し、ベリエルの胸ぐらを掴む。「ぐっ!…」この時、何故かベリエルは虚無の魔眼を見せてこなかったが、この時はそんな事が気にならないくらい怒りの感情のみがグロードを突き動かしていた。怒りが爆発したグロードは胸ぐらを掴んで動けなくなったベリエルの顔面を拳で連打した。「うおおおおおお!!!!」ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスッ!……!何度殴っただろうか。何故か無抵抗のベリエルをグロードは怒りのままに殴り続けた。そして、右拳に魔力を込める。全属性を操れるグロードは、右拳に全属性の力を纏った。全属性とは、基本属性である8属性(火、水、風、雷、土、空間、光、闇)。これらを全て併用すると、相反する属性同士が互いを弾き合う。普通に使えば術者に影響が及ぶ危険な行為。しかしグロードは呪いにより死なない不死身の身体である為、その様なリスクが無い。無尽蔵に溢れ出る魔力を、右拳に纏った全属性の魔力へ更に加算する。魔力が増えれば弾き合う力も更に強化される。グロードはその強大すぎる力を全て、ベリ
ラウスが産まれてから5歳になった頃。未だグロードはベリエルを見つけられずにいた。その日は休日出勤で働きに出ていたヒスイの代わりに、グロードがラウスの世話をしていたのだった。「お父さん!」グロードの所まで走って近づくラウス。ラウスは髪色は母親譲りの綺麗な白銀であったが、顔はどちらかというと子供の頃のグロードに似て優しそうであった。「どうしたんだ、ラウス?」「この魔法書に書かれてるやつが分からないんだけど、教えて欲しい。」ラウスはどうやら魔法書を見ながら勉強しており、グロードは分からないところを教える為に一緒に見た。ーーこうしてると、ベリエルに勉強を教えてた頃を思い出す。一瞬ベリエルを思い出したが、すぐにその思い出を振り払った。「(いかん!ラウスはあいつとは違う!あいつはもう弟じゃ無い。憎むべき男なんだ。)」グロードは邪念を払う様にして、そう自分に言い聞かせた。「どうしたの?」「あっ…えっと、何でも無い!…ここが分からないんだな?」グロードはラウスが聞いてきた分からない部分を見て驚いた。「(…これは…高等魔法の専門書じゃ無いか。とても5歳が理解出来るレベルじゃ無いぞ。)」ラウスは魔法の理解力が異常に高く、それは紛れもなく10歳で実用性のある魔法を発明していったグロードの血筋であった。「ここはな、こうだから……。」噛み砕いて教えたつもりだがどうしても難しい専門用語を使う為、高校生でも理解が困難なレベルであった。しかし、ラウスは。「ありがとう!それだけ分からなかっただけだから!」 そう言ってラウスは専門書を持って部屋に戻って行った。ーーあの難解な本の一部分が分からなかっただけ?「…凄いな。流石は、俺の息子だな。」5歳にしては凄まじい魔法の才能を発揮するラウスに驚いていたが、自分の息子がこれ程の才能を持っている事に対して誇らしくなった。それから7歳になって少し身体が大きくなったラウスは体術の面でも凄まじい才能を発揮していた。「やああ!!」ラウスは殴る時に上記の様な子供っぽい掛け声を出すものの、それまでの動きが凄かった。グロードは手加減してるものの、まるで次に動き出す足の動きが見えているかの様にラウスは予測していた。その様子をヒスイはちゃんと見ていた。その夜、ラウスが寝静まった時にヒスイから話があった。「あの子、
月の遺跡から現れた古の化け物達が世界中を暴れ回った事により、多数の他国の人が亡くなったこの事件は世界中で瞬く間に広がった。現去流時(げざると)で生き返るのは、同じ種族の人間のみ。つまり、月の民が生き返った事により他国の人間は殺されて亡くなったままであった。これにより、今回の首謀者は今まで古の化け物達を野放しにし続けてきた月の民の責任だと言われ、これが更に月の民達への差別が助長される要因となった。この差別は風化される事が無く、時間と共に他国からの恨みばかりが募っていった。一方、古の化け物達を倒し世界の人々を救ったと持ち上げられたグロード。彼は世界の英雄として一躍有名人となった。沢山の人に賞賛され、感謝される日々。中にはグロードが古の化け物達を倒した事を記す為、絵物語を書きたいと懇願してきた絵師も居た。ーーもう、好きにしてくれ。投げやりに全てを受け入れるグロードは、ほとぼりが覚めるまで、人々の"英雄ごっこ"に付き合った。そして50年が経った頃には彼の事を知る者が死に去っていき、その頃にはもうグロードの事を英雄と呼ぶ者は居なくなっていた。50年も経てば時代の流れもそうだが、人々の価値観や文化も大きく変わっていく。しかし、変わらないものもあった。1つは月の民の差別。これはいつまで経っても、古の化け物達が世界中を暴れ回り、その生まれ変わりが現在の月の民だと後世に語り継がれていた。その為、実際古の化け物達が暴れた所を見た事がない後世の人々も、月の民が恐ろしい存在であるという価値観だけ植え付けられていた。そしてもう1つ変わらない事がある。これは50年経つ前から感じていた事だ。歳を取っていない。グロードは40歳の姿から変化が見られ無かったのだ。何故変化が無いのか?それはベリエルが掛けた呪いのせいであった。ベリエルはリオ王国の人達を超月食の日に自身の生命エネルギーに変換させ、それによってベリエルは不老不死となった。そんなベリエルに掛けられた呪いにはある条件があった。「この呪いは、術者が死ぬまで継続されるものである。」つまり、これはベリエルが死ぬまで呪いが解けないという事だ。不老不死になったベリエルは死なない為、呪いを掛けられたグロードとアガレフも必然的に不老不死となってしまった。これが、2人が400年間死ぬ事なく生き続けてきた理
それからもグロード、アガレフ、ベリエルは共にリオ王国で平和な日々を過ごしていった。グロードはあれから魔法の鍛錬を積んでいったが、時々月の遺跡へ出向いてアマルとサマスに修行を付けてもらう事が増えた。アガレフもグロードと一緒に月の遺跡へ出向き、修行を付けてもらっていたが彼には既に沢山の弟子が居た為、都合が合わない日が多かった。そしてベリエル。彼はこの頃になると部屋に閉じ篭もる事が増えた。理由は分からないが、何を聞いても調べ物をしてるだけだと言い、詳しい事はグロードとアガレフに教えようとしなかった。一度気になったグロードとアガレフはベリエルの部屋に行ってみた。扉の前でアガレフがグロードに言った。「ベリエルの奴、朝から部屋でずっと何かしてるみたいなんだが…どうも様子が変なんだ。」「ああ。確かに変だ。ベリエルがこの部屋に閉じ篭もってる間、一切の魔力を感じないからだ。」異変に気付いたのはグロードも同じであった。魔力を感じない。というよりも、まるでそこにベリエルが存在していない様に感じられた。気になったグロードはベリエルの部屋の扉をコンコンとノックした。数秒待っても反応は無く、静かなままであった。「…やはり様子が変だ。扉を開けるか?」「待て、アガレフ。流石に勝手に入るのは…。」すると目の前の扉がギィィッとゆっくり開く音が聞こえてくる。中からは相変わらずクマが酷いもののいつもの変わりない表情と姿、そして魔力のベリエルが出てきた。「…どうしたの、兄さん達?」何故か扉の前にグロードとアガレフが居た為、キョトンとした表情で2人を見ていたベリエル。「…いや、…何でもない。ずっと部屋に閉じ籠ってるから心配になってな。」「そ、そうだ。偶には、外に出て身体を動かしたらどうだ?」さっきまで魔力が感じられなかったベリエルはまるでそこに居ない様な気配であったが、突然その場に現れた様な気配に2人は驚く。しかし、一先ずベリエルに変わりがない事を確認して2人は安心した。「……んー、確かにそうだね。偶には身体を動かさないとね。…明日、久し振りに兄さん達に稽古を付けてもらおっかな!」グロードとアガレフにそう言われて頭を傾げ、少し考える様な間が気になるがすぐに笑顔になった。それを聞いたグロードとアガレフもベリエルに釣られて笑顔になった。「ああ。勿論だ。」「
その頃、カイルとエミルは別々の場所で悪魔の大群を相手にしていた。カイルは目の前から襲ってくる悪魔を見た。「目の前にはおよそ100体か。いや、この周囲の魔力を探ればそれ以上…」「面倒だ。纏めて一気にぶった斬る!」カイルは自身の影を直径10kmの範囲まで広げた。この3日間、魔力の流れを読む訓練をしていた為か、カイルの魔力操作の練度はかなり向上している。本来10kmまで影を広げてしまうと剣を振るっても影の端に居る敵に与えられる威力はかなり落ちてしまう。しかし魔力の流れを読める様になった今、カイルは見なくても相手の位置は勿論、身体の部位が隅々まで分かるレベルまで察知出来る様になっていた
これは愛を知らずに育ってきた男の話。彼はこれまでの人生の中で物心ついた頃から愛という物に触れる事なく生きてきた。ネル・ナイトフォース。彼は5歳まで北の大国の中心都市部にある貴族の家で奴隷として過ごしてきた。物心付く前から奴隷として仕えていたが、そこでは人権というものが存在しなかった。「おい、ゴミ!さっさとこの食器片付けろよ!」その屋敷の主である中年男は仕える奴隷に向けて済んだ食器を片付ける様に命令した。「…はい。」命令を受けて出てきたのは当時4歳のネル・ナイトフォースだった。彼は肌着同然の薄い半袖の服にヨレヨレのズボンを履いていた見窄(みすぼ)らしい少年だった。身体を洗わせ
アガレフは家の前で見送ってくれるリーナと、彼女に抱き抱えられているミーナの方を見た。 あの赤ん坊の頃に比べると少し大きくなったミーナ。金髪で青い瞳に綺麗な顔立ちが、どことなく母親であるリーナに似てきた気がした。 「じゃあ、行ってくる。」 「…うん。ずっと、待ってるからね。」 そう言ってアガレフとリーナは最後の口付けをした。 そして最後にミーナの方を見た。 「おとー。おとー。」 手を伸ばしながらお父さんと呼ぼうとしてるミーナ。その純粋無垢な瞳には、今日を最後に会えなくなるなんて微塵も思っていないのが分かる。 アガレフはミーナの額に手を当て、撫でながら言った。 「ミーナ。これか
「皆さん、落ち着いて下さい!こっちへ避難して下さい!」巡回してたカレンは突然の悪魔襲撃に混乱してるレミールの国民達を悪魔が少なそうな場所へ誘導し、前方から襲って来る悪魔を返り討ちにしていた。しかし、地上へ繋がる道はアスモディウス達が通ってきた場所しかこの国には無い為、国民達は結局逃げ道から遠ざかっていくだけだった。カレンは只ひたすら、逃げ道の方から現れる悪魔達を斬り倒していた。「(何で悪魔がこんなにも湧いて出て来るの!?国の入り口で待機してたザジさんは?もしかしてやられたの?)」そんな事を思いながらカレンは剣を振り続けた。一方、他の場所でも騎士長達は悪魔達と交戦していた。「悪魔